ウイスキーができるまで

『Making whisky -ウイスキーができるまで-』

ウイスキーはモルトウイスキーから始まりました。
大麦麦芽を原料に単式蒸溜器(ポットスチル)で蒸留されるモルトウイスキーが、長い年月をかけて、様々な香りや味わい、
そんな1本1本の歴史をつくり出してきたんですね。ここでは、簡単ではありますが、ウイスキーができるまでの工程を書いてみました。

1.穀類

◆ウイスキーの原料は穀類。モルトウイスキーなら大麦、バーボンならメインはコーンetc
モルトウイスキーは、ブレンデッドウイスキーの香味を決定づける大切な要素です。
厳選された二条大麦の麦芽(モルト)からモルトウイスキーが造られます。

2.発芽・乾燥

◆粒の揃った大麦麦芽を選び、発芽させるために水に浸けます。
その後、乾燥させ、発芽が一定のところで止まり、大麦麦芽を粉砕するための下準備になります。
ピート香と呼ばれるウイスキー独特の香りは、乾燥時に使用されるピートをいぶす事で
大麦麦芽に染み込まれていくんですね。

3.仕込み(糖化・ろ過)

◆乾燥させた後に、大麦麦芽を粉砕します。
この粉砕された麦芽のことを「グリスト」と呼びますが、グリストを糖化槽に入れます。
そこに約60~65℃の温水を加えてかき混ぜると、大麦麦芽に含まれる酵素の働きが活性化し、
大麦のデンプンが麦芽糖に変化します。この糖化のことを「マッシング」と呼びます。
マッシングを行うことで、甘い麦汁「糖化液」が造られ、ろ過していきます。

4.醗酵

◆マッシングして出来た糖化液を醗酵槽に移して酵母を加えて醗酵していきます。
大体、72時間程で麦汁に含まれた糖が醗酵します。

液体中の糖がアルコールと炭酸ガスに変わり、イースト菌の作用によって糖分をアルコールと炭酸ガスに分解すると、
アルコール度数7~8%程度のビール状の醸造酒になります。
ですが、その匂いは嗅ぎなれたビールのものとは似つかない強烈なもので、
深く吸い込むと息が出来なくなってしまうほどの刺激臭があるんですね。
この発酵によって出来た液体(発酵終了モロミ)を「ウォッシュ」と呼びます。

5.蒸留

◆蒸溜は、発酵液を熱することで、アルコールと香味だけを抽出する作業です。
モルトウイスキーは通常、単式蒸溜器(ポットスチル)を使って2度行われます。
1回目は初留釜(ウォッシュスチル)で蒸溜して発酵させた麦汁は、アルコール分が20%程度の液体となり、
次にそれを再溜釜(スピリッツスチル)へ移し再溜すると、アルコール分約70%の蒸溜液に変化します。
この状態は、まだ無色透明のままなんですね。

また、グレーン・ウイスキーやスピリッツは連続式蒸溜を使っても行います。
連続式蒸溜の場合は味が薄くなるため、風味を大切にするものシングルモルトや焼酎などは単式蒸留です。

「※なんで蒸溜によって成分を取り出すことができるの?」

■水は100℃、アルコールは78℃という沸点に差があるためです。
その差によって、アルコールと香味成分を得ることが出来るんですね。以前は、人の手によって釜の素材や温度管理がなされていましたが、
現在は、機械化が進みより一定の品質のものが造れるようになった反面、人の手間がなくなった分、品質が低下してしまったという
メリット・デメリットもあるようです。

6.樽熟成(貯蔵)

◆蒸液は樽詰めされて、貯蔵庫で寝かせることを熟成といいます。
蒸溜液が歳月を経て、無色透明から樽から染み出る成分をもらいながら琥珀色に変化していきます。
この樽詰めの際には満タンに入れますが、この熟成過程では、年に2~3%程、樽の中身が揮発して減っていくそうです。
これを「天使の分け前(エンジェルズ・シェア)」と呼んでいます。寝かせる(減る)ことで美味しくなることから、
感謝の気持ちを込めてそう呼んでるんですね。なんか、とても素敵なことですね!

なお、寝かせる樽や、例えば10年もので、ずっとオーク樽で寝かせていたけど、
最後の1年だけシェリー樽で寝かせる「シェリー・フィニッシュ」など、熟成にも樽材や樽の種類、寝かせ方や場所によって
大きく変わってくる非常に重要な工程と言えます。

「※熟成させる『樽』ってどんなものがあるの?」

■代表的な樽材としてはホワイトオークが知られていますが、シェリー酒の空樽が使われることもよくあります。
シングルモルトウイスキーなどは殆んど、2番樽、3番樽などを使用しますが、新樽を使う場合、ウイスキーの刺激臭を吸収するために、
普通内側を火で真っ黒に焼きます。この焼き具合でも、ウイスキーの熟成を左右してきます。
(特に、バーボンなどは、厚めに焼くので、独特の苦みが出るんですね!)
また、熟成には樽の材質や容積、貯蔵される際の庫内での場所、積み上げる段数、湿度や温度といった要素が複雑に影響し、
樽から木材成分が溶け出したり、樽材を通して空気と接触することによっても蒸溜液のさまざまな成分が変化します。
こうした条件が微妙に絡み合って、ウイスキーらしい豊かな味わいと深い香りが生まれるのです。

【樽の種類について】
樽の成分もですが、大きさが変われば、木に触れる表面積が異なることで、
出来あがるウイスキーの味にも大きな変化があります。それだけ樽の役割は大きいということですよね。

「バット」

容量:約480リットル
特徴:スコッチ・ウイスキーで使用する最も大きなサイズの樽です。
バットで使用するのは、殆どがシェリー樽です。(シェリーバットとも言います)
ですが、最近では、ポートワイン、マディラワインの樽も見かけるようになりました。
ポートワインの場合はパイプ(pipe)とも呼びます。

「パンチョン」

容量:約480リットル
特徴:バットと並んでスコッチで使用する最大の樽です。
バットに比べると胴が太くずんぐりとしているのが特徴です。
スコッチでは700リットル以上の樽は使用しては
いけないことになっているんです。

「ホッグスヘッド」

容量:約230リットル
特徴:ホッグスヘッドとは「豚の頭」という意味です。
樽が豚一頭分の重さだったからそう呼ばれたとの説があります。
スコッチ・ウイスキーの熟成で最も多用するのがこのサイズで、180リットルの
バーボン樽を分解しホッグスヘッドに組み直すのが一般的と言われています。

「バレル(バーレル)」

容量:約180~200リットル
特徴:バレルは、殆どが「バーボン樽」です。
新樽はバーボン・ウイスキーの熟成に使用されることから、「アメリカン・バレル」とも
言われています。なお、バレルの容量は180リットルから、現在は200リットルへと
統一されていっているそうです。

「ミズナラ樽(英語名:ジャパニーズオーク)」

容量:約480リットル
特徴:北海道に生息するミズナラの木で造った樽です。
樹齢150年以上の木のみで造られたミズナラ樽は、熟成年数が20年を超えると、
独特の香りを持つと言われていて、当時は見向きもされなかったこのミズナラ樽ですが、
近年では、海外のブレンダーや鑑定家からも高い評価を得ているそうです。
ミズナラで造った有名なブランドではサントリーの「響」などがあります。

7.瓶詰め

熟成を終えたウイスキーに加水(水を加えること)し、マリッジ(モルト同士や、モルトとグレーンを融合すること)を行い、
低温濾過(チルドフィルター)という過程を経て瓶詰めされ出荷されます。

まず、加水することによりウイスキーのエタノール濃度は37%ないし43%に調整されます。
その後、後熟(加水後のウイスキーを数か月ないし1年間貯蔵すること)により、エタノールの刺激的な味に滑らかさが出てきます。

また、低温濾過(チルドフィルター)は、加水によりウイスキーのエタノール濃度が薄められ、成分の一部、折が出ることを防ぐため、
0℃近い状態で濾過を行います。中には、この濾過されるのは、ウイスキーの香味を構成する成分でもあるため、
低温濾過を行わない(ノンチル)のモルトウイスキーもあります。

—ちなみに———–

何度か出てきましたが、上記とは異なり加水しない場合もあり、これを「カスク・ストレングス」と呼びます。
また、後熟が行われる前に、異なる樽で熟成させたウイスキーは混合(ヴァッティング)されますが、
混合を行わなかった場合を「シングル・カスク」と呼び、シングルカスクについてはその前の加水も行わません。
加えて、ブレンデッドウイスキーの場合は、モルトウイスキーとグレーンウイスキーをそれぞれ個別に混合させた上で、両者を混合させ樽詰めされます。
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最後に、瓶詰めは、蒸留所やその親会社により行われる場合と、関係のない商人が行う場合とがあります。
前者による製品を「オフィシャルボトル」や「蒸留所元詰め」と呼びます。
後者の商人のうち、独自の保税貯蔵庫や瓶詰め施設を持ち、蒸留所から樽ごと買い付けたウイスキーを商品化するものを
「瓶詰め会社」や「ボトラーズ・カンパニー」といい、ボトラーズ・カンパニーによる製品を「ボトラーズ・ブランド」と呼びます。
一方、独自の施設を持たず、熟成までの工程を蒸留所に、瓶詰めをボトラーズ・カンパニーに委託するもを「インディペンデント・カンパニー」と呼び、
インディペンデント・カンパニーによる製品を「インディペンデント・ブランド」と呼びます。